2011年9月17日土曜日

コリアンモンスターとちょっとした魔法

 September 17, 2011. Written in Seoul, South Korea

 コリアンモンスターとちょっとした魔法 

 数日前からソウルの小さな極真道場にお邪魔している。先生は女性で、大半の生徒は中高生だが、練習はかなりハード。英語の記事にも書いたが、一日目はいきなりサッカーから始まり、びっくりした。その日は最後までスパーリングがなく、知らない相手と戦えることが楽しみであっただけに少し残念だった。だが、道場の雰囲気がよかったし、人も優しかったので、明日も来ていいよという誘いに乗った。スタミナをつける良いチャンスだと思うことにした。そして、次回はもしかしたらスパーリングがあるかも、という期待もまだ捨てたわけではなかった。

 その前日同様、道場生は全員ジャージ姿で、僕もそれに学んでジャージで登場した。全員中高生でみんなノリがいい。この日も、最初の種目は空手じゃないものだったが、少なくともサッカーよりは格闘技に関係しているものだった。何かというと、もちろん縄跳びのことだ。道場生は相当慣れている様子だった。スピードが速い上、めったに失敗もしない。その中で僕一人だけが浮いていた。あまりやったことがなく、いかにも素人に見えたと思う。2千回やれという話だったが、全員が終わったところでまだ1400代だった。「もういいよ」と先生が笑って言った。少し恥ずかしかったが、終わるころには少しこつがつかめてきた。どこかで縄跳びを買って、一人で練習してできるようになってやろう。

 その後は一番でかい二人がガンダム(全身防具)をつけて、息上げを行った。あれだけ縄跳び慣れしているのに、突き蹴りの感触は素人に近い子が多かった。だが、ガンダムをつけている二人は少し違った。練習している人の技だな、と見て取れた。僕が息を上げたあと、一人と交代してガンダムをつけて、技を受けた。全員が終了すると、最後にガンダムをつけている大きい高校生と僕とのガンダムスパーが行われた。僕より体重が重く、身長も同じくらいだったが、最初に上段を蹴ってみるとクリーンヒットして、相手がびっくりした。だが、下がるどころか、プレッシャーをかけてきた。16歳だとは思えないような大きい身体が突進してくるのに対して左右に交わしたりして、また上段を捉えようとした。日本での最後の試合、強くて大きい高校生と戦ったことを思い出した。確かににこんな感触だった。
 いい身体してるし、空手に対する情熱もよく伝わってきたが、まだそこまで技はついてきていないようだ。空手をやってまだ日が浅いのかもしれない。

 稽古をおえて、先生とでかい彼と3人で少し話した。先生の英語よりも彼の英語の方が上手だった。12月に試合を控えているらしい。そらから、来年は日本でも試合に出る予定でいるみたいだ。「高校生の部じゃあ、きっと強いんでしょうね」と言うと、先生が笑って彼のことを「モンスターだからね」と言った。

 その夜、帰宅すると足の親指が痛くて、歩くのが精一杯だった。前日のサッカーで突き指をしたのが、悪化したみたい。
 翌日起きてもまだ治らず、触ると相当に腫れているので、稽古にいけるかどうかが心配になった。だが、時間になるととにかく行ってみることにした。道場までの道のりは結構長く、1回乗り換えて45分くらいかかる。道場に到着すると案の定、中高生がサッカーをやっていた。サッカーだけは無理だな、と思ったが、幸い誘われなかった。
 サッカーが終わると、砲丸のようなものを用いたウェイトトレーニングがはじまった。これには僕も参加した。何種目をも、それぞれ5セットずつ行い、全身を使った運動だった。間に休憩もほとんどなく、相当の汗が出た。僕は日本でもウェイトトレーニングが苦手だったが、ここでもついていくのに一苦労だった。だが、どの種目もよく考えられたもので、先生の稽古のつけかたに感心しながら楽しく身体が動かせた。そして、いつのまにか足の親指の痛みを忘れ、平気で足に負担のかける種目までこなした。日本でもよくあったが、どこかを怪我してて稽古できないなと思いつつ、道場にくるとついその痛みのことを忘れ、問題もなく身体を動かしていることがある。それは道場のちょっとした魔法だと思う。
 稽古はウェイト一筋で終わった。全身に疲労を感じながら道場を後にした。そして、外に出た瞬間、足の親指のあのおそろしい痛みが戻ってきた。魔法が消えた。

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