事故し放題

December 13, 2011. Written in Hong Kong.

事故し放題

陽朔は多くの観光客が来る場所であり、様々な遊びができる。僕みたいに自分で竹いかだを買う人はほとんどいないが、例えば一日川でラフティングする人は多いし、洞窟を探索したり、ロッククラインビングしたり、自転車で移動してみたり、天気が良ければ川で泳いだりと、一週間があったところで遊びつくせないだろう。バイクに乗るにしても、免許を見せる必要がないし、実に簡単に借りられる。
そんなわけで、陽朔についた２、３日目には、日本人のKさんと一緒にバイクを借りてきた。免許も持たない、バイクに乗ったこともない僕の後ろによく乗ってくれるなと思い、事故らないように気をつけて運転した。ところが、いくら心構えがよくても、初めてやる以上は、運転の仕方も多少危なっかしいことをご理解いただけるかと思う。それでも、しばらくすると大分走れるようになり、難なく移動できるようになった。ところが、町外れの小さなトンネルに入ると、前にある小型トラックがあまりにも遅いスピードで走っており、必死に減速しょうとしていると、スピードのなさのせいでバランスが取れなくなり、トンネルのど真ん中でこけてしまった。ゆっくり走っていたので大した事故ではなかったが、後ろに女性を乗せていたのでかなり罰が悪かった。彼女をすぐに立たせ、大丈夫ですかと尋ねた。
「ちょっと、何するのよ？」と笑いながらも言われ「大丈夫よ」と呟かれた。
幸い大した怪我はないようだったし、それほど怒られもしなかった。

この日はたくさん運転し、大分コツがつかめてきた。ところが、Kさんは最後まで不安で、運転教師みたいに指導してくれた。
「はい、ここはちゃんと左右を見てから渡りましょう¨¨後ろに車が来ていますので、道路の端に寄りましょう」という具合に。
思ってみれば、とても安いレッスン代だった。

その二日後、陽朔で出会ったLくんというドイツ青年とまたバイクに乗ることになった。彼も無免許で、バイクに乗ったことなんてもちろんない。
「バイクなんて朝飯前だ。飛ばしてみようじゃないか」と彼が言うと、僕は元気よくうなずいて見せた。
「俺はもう乗り方を心得てるから、見せてやるよ」と。
そんなわけで、二人で一台のバイクを借り、桂林の田舎を目指して朝の１０時頃に陽朔から出発した。スタートは順調で、数十キロを問題なく走り、観光客の姿もどんどんなくなり、素敵な自然と地元の人々の姿だけが残った。Lくんが以前に自転車で行った道にたどり着き、彼がそのときに見つけた学校をもう一度訪れてみた。少年たちはまだ彼のことをよく覚えていた。

そこからさらに３０分ほど進むと、とても小さな村にたどり着いた。未舗装の狭い坂道があり、何があるか見てみようかということで上ってみた。ここまでは僕がずっと、問題なく運転してきた。　

坂道は行き止まりで、家が一軒立っているだけだった。家の前には２匹のブルドッグが立ち、激しく吼えており、僕らに突進してきた。狭い道だったので、なかなかＵターンできず、降りてバイクを押して必死にターンさせようとした。ブルドックはだんだん近づいてきたが、バイクをなんとかターンさせることに成功し、急いでバイクに乗ってスタートした。ところが、パニックっていたせいか、アクセルを強く握りすぎて、バランスが取れず大きく倒れた。Ｌと僕は二人バイクから落ちてしまい、ブルドックは唖然とした状態でその光景を眺めているだけだった。僕はすぐにバイクを立て直したが、片方のミラーが割れていることを発見した。
「やばいぜ、後ですごい金を払わされる」とＬが言った。
「ああ、そうだけど、とにかく急いでここから離れよう」
Ｌはミラーをかばんに入れ、僕は再度スタートした。

そのほんの１０分後、ちょっと大きめの村に出てきた。そこには二軒のバイク屋さんが並んでいた。ミラーを直してもらえるのかもしれないと思い、一軒目に尋ねてみたわけだ。だが、バイク屋のおじさんは顔を横に振った。直せないらしい。合掌をしたり、土下座したりしても、男は顔の表情を一つ変えずに頭を振り続け、消えてくれといわんばかりに手を振った。
「やばいぜえ、やばいぜえ」
念のためにもう一軒のバイクやさんも訪れてみた。そこにいるおじさんにバイクとミラーを見せると、あっけなく「直せる」と言われ、バイクを預けた。

「いくらかかりますか？」と高い値段を恐れながら聞いてみたのだが「５元です（５０円くらい）」と言われて、思わずハイファイブした。この５元を、事故を起こした僕がもちろん払った。男はノリで割れたミラーを直し、ドライバーでバイクにくっつけた。ノリを少しばかり使いすぎたようで、割れたあたりにたくさんの白いノリが残っていたが、まあ、５元の修理代はそんなもんだろう。おじさんに礼を言い、再度バイクに乗った。
「お前の運転は危険だから、今度は俺が運転するよ」とＬは言った。僕は返す言葉もなく、素直に彼の後ろに乗った。

そして、修理屋さんと同じ道のジャンクションで、Ｌがアクセルを握りすぎてしまい、猛スピードを出してしまい、バイクがまた倒れしてしまった。僕はバイクから落ちたが、Ｌはまだなんとかハンドルを握っており、バイクを立て直そうとしていたが、ハンドルに握ることによってアクセルをも握ってしまうことを忘れてしまったようで、テキサス州のロデオ師が如く、空中に浮いているバイクから必死に落ちぬようにしょうとしていた。だが、それは無駄な試みで、彼はやがてバイクを手から離してしまい、バイクが４，５メートル宙を飛び、大きな音でまた地面に倒れた。そして、ミラーは見事にまた割れてしまった。通りすがりの人々はそれを見て、ただ笑っているだけだった。Ｌと僕も笑いが止まらなかったが、それでも何よりもさきにバイクを立て直し、安全なところに移動させた。

そうやって、ほんの数分でまた修理屋さんに戻ってきたわけだ。おじさんに割れたミラーを見せると、さすがに驚いた顔を見せた。
「ノリの種類を間違えたのか？！」とでも思っているようだった。だが、もう一度事故ったことを仕草で説明すると、「５元です」と言って、無口でまた直してくれた。今回払ったのは、当然Ｌくんだった。

「このおっさん、２０元のバイク事故し放題みたいなアクションをやれば儲かりそうだね」というＬの案に、賛成せざるを得なかった。そうすれば、僕ら二人は間違いなく常連になるだろう。

その後、僕らは一日楽しくドライブし、きれいな景色を見たり、文明から遠く離れた小さな村を訪れたり、農家のみかんを盗んだりと、すばらしい一日を過ごした。

時間を忘れ、夕方になると、山奥のどこかで思い出したようにガソリンがどれくらい残っているだろうかと見てみると、もうほとんどないことがわかった。近くにガソリンスタンドどころか、人の気配すらない。だが、心配しても仕方ないわけで、ガソリンスタンドが現れることを必死に祈って前に進むしかない。
ミラーもどんどんゆるくなってしまい、今にでも落ちてしまいそうだった。

３０分くらい進むと、小さな農村まで出てきて、お店らしいところが一つあった。お店といっても、人が自分の家の一部屋をあけて、カップヌードルやジュースを売っているだけの場所だった。
「ガソリンはないか？」と聞くと、「あるある」と言われて、おじさんがコカコーラのペットボトルに入ったガソリンらしきものを渡してくれた。ついでにドライバーも貸してくれというと親切に貸してくれ、ミラーのゆるさも調整できた。
これで完璧だ！あとは陽朔に戻って、バイクを返すだけだ。レンタルのおばさんがミラーのあたりのノリや割れ目を見ないといいが¨¨。

大きな笑顔を顔に浮かべ、レンタルのおばさんに声をかけた。
「とても楽しかったです！明日また来ようと思います！」
「そうかそうか」とおばさんも微笑んでいる。
Ｌはミラーが見えないように、その前に立ち、同じような笑顔を必死に浮かべていた。
「それじゃあ、また待ってるわね」
「ええ、ありがとうございました」
おばさんと別れると、ゲストハウスまで一息で走って、到着するとハイファイブし、楽しい事故し放題の一日を終わりにした。